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聖刻ノ猟手 第1話『混沌呼び覚ますモノ供』 その1へ
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寒々とした岩山と砂礫、まばらな潅木の群生が続くなか、ずしり、ずしりと音を響かせながら、列を作って進む一団があった。
一リート半はある巨大な鉄人。操兵と呼ばれる人造の巨人たちである。
しかし、操兵を知る者の目で見ても、それらは異様な姿をしていた。とにかく、機体の装飾が過剰だった。上半身からは針山のように突起が飛び出していて、それらはすべて色違いに塗り分けられている。比較的起伏の少ない下半身にも、複雑な彫り込みや塗装がなされ、足首のあたりには上半身同様の複雑な構造の突起が生えていた。
さらに、腰のあたりからは、その身長の三分の二はあろうかという太筒が、天を指すように何本も屹立している。
しかも、それらはひとつとしておなじ外見のものはなく、それぞれに異なる装備を施されていた。あるものは巨大な盾と竿状武器を持ち、またあるものは操兵大の聖印とおぼしき物体を抱えるようにくくりつけられている。ある機体には髪の毛を思わせる長く黒い紐が何本も頭部から背後に向けて伸びており、奇怪なことに、ぱちぱち、しゅうしゅうと音をたてて紐の間を光が走り回っている。それが手にしているのは黒鉄色の大きな穂先を持つ巨大な槍だった。
銃型の大砲を手にした機体は比較的多く、そうしたものの背後には、太筒が取り付けられていなかった。そこから推測するに、あれも大砲の類なのかもしれない。
そうした機体が全部で三〇機ほど。それらが整然と細長い尾根を進むさまは、戦装束に身を固めた古代の神々の絵姿を彷彿とさせた。
先導する人間の姿はどこにもなかった。操兵がこうした人里離れた場所を行く場合、同行の鍛冶師の存在が必須である。操兵はかならず壊れるものだからだ。にもかかわらず、この一行に人らしき姿はどこにも見当たらなかった。
戦いが近づいているためだろうか。普通、こうした旅の一行から漏れてくる、拡声器越しの会話が一切聞こえない。時々視線を合わせ、小さくうなずきあう程度で、それ以外は意思疎通を思わせる動きもまったく見えなかった。
「来たか……」
尾根の途中に立って、望遠鏡をのぞきこんでいたナザムは、顔をしかめつつイゼーラたちを振り返った。
「なんでそんな顔をするんです?」
シュウマが怪訝な顔でたずねる。聞いた話では、あれは味方のはずだった。
「なあに、いまにわかるさ」
ナザムはうんざり顔に無理やり笑みを浮かべ、褐色の装束に身を包んだ配下の男たちに目で合図をした。衣服の色が変わったのは、ここではこの色が目立たないかららしい。たしかに、少し離れて見ると背景に溶け込んで見えるような気もする。
灰色の男たちは、ナザムの合図を受けてその場からぱっと散っていった。
「さて……ここからが本番だ。言っとくが、おまえら、あのボルトンをこっちに預けておいたほうがよかったとか、いまさら思ったりするなよ?」
「どういうことです?」
厚手に上着の前をかき寄せながら、ナザムに向かってユキムがけげんそうにたずねる。
「なに、言葉通りさ。これから起きることは、おまえたちが想像だにしなかったものさ」
水源組合の地下室で、ナザムを人質に取ったイゼーラたちだったが、当のナザムは落ち着いたものだった。
「ま、好きにすればいいがね? ひとつだけ言わせてもらえば、君たちは深刻な魔力障害(マーナ・ソルダム)を引き起こしている可能性がある」
「魔力障害?」
眉根を寄せて尋ねるイゼーラに、ナザムは後ろ手に捻りあげられた状態のままにやりとなった。
「そうさ。強力な魔力のもとにさらされると、肉体が適応障害を起こすことがある。それもかなりの高確率でだ。そのボルトンくんを調べようとしたのも、障害の影響がどのくらいで出るかを調べるためだったのさ。彼がその障害を起こしているのは明らかだからね」
「え、おいら、なにかまずい病気になってるの?」
とぼけた声でそう言いながら、ボルトンは不安げな顔で自分の身体を見回した。
「濃密な魔力を帯びた水に頭から浸かったんだ、無事じゃあすまないだろうね。ほら、そろそろ影響が出始めている。手首のあたりを見てごらん。赤い発疹が出てるだろ?」
ナザムの言葉に自分の右の手首を持ち上げたボルトンは、確かにそこに赤い点がぽつぽつ浮かんでいるのを見てぎょっとなった。
「まあ見てるがいい。何日もしないうちにそいつは全身に広がって、やがて皮膚はただれ、内臓は機能を果たさなくなってくる。そうなれば、あとは身体中の穴という穴から血とも膿ともつかないものを垂れ流しながら、苦痛の中で絶命するだけだ」
ボルトンは震え上がった。
「それにあたしたち全員もかかってるって?」
ナザムはそっけなくうなずいた。
「水に入ってないにしろ、飛沫は浴びたり吸ったりしてるはずだ。まあ、遠からず全員おなじ運命をたどるだろうな」
「……怪しいですね」
低くつぶやいたのはユキムだった。
「さっきは、ボルトンさんの身体に異常がないことを不思議がっておられるようでしたが? いまは、まるでなにが起こるかを完全にご存じのような口ぶりです。こういう時、人間は口からでまかせを言っているって相場は決まってるように思います」
ナザムは、床に押し付けられたままの姿勢で小さく肩をすくめた。
「好きにするさ。なんなら、こっちの解放と引き換えに自由にしてやってもいい。悪い条件じゃないだろう? もっとも、その後どうなってもこちらは関知しないが」
イゼーラたちの間に重い沈黙が流れた。
「あんたの話が本当として、じゃあ、オレたちはどうすればいいんだ?」
チグリオの声に、いつもの陽気さは微塵もなかった。
「魔力障害の知見は、まだそれほど多くない。というわけで、きみたちにはその情報収集に身をもって協力して欲しい」
「見返りは?」
睨むように見下ろすシュウマに、ナザムは首をひねるようにしながら視線を返した。
「とりあえず延命の方法はあるし、十分に設備の整った場所さえあれば、最終的に治療することも可能だ。つまりきみたちが協力してくれれば、われわれも、きみたちもお互いに得することばかりってわけさ」
そこまで言ってから、ナザムは満面に笑みを浮かべてこう続けた。
「……ま、そのためにはいろいろ条件があるがね。わたしの解放がまずその一歩目だ」
ナザムの話は全部でたらめです。魔力障害なんて病気はありません。
イゼーラに反撃されたのは想定外でしたが、彼は口八丁手八丁で、一行をまるめこみ、彼らが深刻な病気の危険にさらされていると思い込ませつつ、自分の手駒として使う算段までつけたのでした。
ちなみにボルトンの湿疹は、あらかじめ見つけておいたものをさも危険な兆候のように言っただけです。たぶん、街道筋の熱暑のせいで軽く皮膚炎を起こしてるだけでしょう。
ただし、ナザムが先刻言ったことは本当です。本来、ボルトンは水の中に溜まった強烈な魔力のせいで、命を落としても不思議ではありませんでした。
ではなぜボルトンは無事だったのか。
その答えはもう少し後で(ていうか次回で)。
とりあえず、話は北の山岳地帯に戻ります。
「なああんた、本当にいったい何者なんだ? こんな操兵、見たことないぞ」
ほどなくして、一行の前に到着した操兵たちを見上げながら、チグリオは背後のナザムにそう尋ねた。
「前も言ったが、世の中には知らないほうがいいことが結構ある。どうしても知りたいかね? その瞬間から、きみの残りの人生はかなり不自由なものになるぞ?」
そこに割って入ったのはイゼーラだった。彼女はいらいらと周囲を見回しながら、背負った大剣の位置を肘で直した。
「もうすでに十分不自由な気がするけどね。でさ、こっちの病気を治すって言ってここまで連れてこられたけど、その設備ってのはどこにあるのさ?」
「まだ遠い。それに、そこに行き着くためには突破しなきゃならない障害もある。これはその準備さ」
「それにしても」
シュウマが訝しげに操兵たちを見た。
「長旅だったんだろう? どうして操手たちは降りようとしないんだ?」
操兵に乗って旅をするのは、考えるよりも快適なものではない。激しい上下動や排熱で常に暑苦しい操手槽など、乗り手を不快にする要素ならごまんとあるからだ。
「まあ、変わり者だからね」
ナザムの答えるその表情と声音に、シュウマは微妙な違和感を覚えていた。
「なにか言いたくないことでもあるみたいだ」
その指摘に、ナザムは曖昧にうなずいて見せた。
「ああそうさ。それをわたしの口から聞けば、さっきチグリオくんに答えたことと同じ言葉を言わなければならなくなる。ま、どっちにしろ、このままいけば黙っていてもそうなることになるだろうが」
「じゃあ、いま言ったっていいじゃないか」
「そうでもない。わたし自身も監視されてるんだ。自分の立場を進んで危うくする気はないんだ」
『導師ナザムよ。われらが対処すべき脅威はいずこか』
それまで黙って整列していた操兵たちの一体——見るからに統率者のものと思われる装飾の多い機体——が、唐突に拡声器から声を響かせた。
「いま探らせてる。なにぶん危険なやつなんでな、こっちも部下の安全をはかると慎重にならざるをえんのだよ」
ナザムは腕を組んだまま不機嫌そうに答えた。
それは非常に雑多な生き物たちでした。小さなものでは砂鼠から、大きなものはこの辺りにいるはずのない長毛の巨大な野牛や、砂漠の竜と呼ばれる砂蜥蜴まで、本来なら捕食関係にある生物同士が肩を並べるようにして進んでくるというのです。
しかし問題はそこではありませんでした。生き物たちの中には、明らかに生きているのが不思議なほどの重傷を負っているものが少なくありませんでした。中には腹に大穴を空け、足元を明らかにふらつかせながらも、まっすぐイゼーラたちのいる尾根に向かって進んでくる人間の姿がありました。隣の岩狼も顔が半分ありません。そのすぐ後ろを来る砂豹は、前足が半分食いちぎられた状態です。
そうした生き物たちが、逃げ遅れた生き物たちを飲み込み、踏み越えながら進んで来るさまは、見ている全員が怖気を感じずにはいられませんでした。
もうおわかりの通り、眼前の敵はいわゆる「屍鬼」の類です。ただし、これは魔法的な力によるものではありません。
あたりに、調子外れの、奇妙に陽気な声が響いた。
「わが軍団は、その数を増しながら進むぞ! さア、どこだ? わが秘所を侵せし者共は」
尾根から数十リート降った場所には、緩やかに傾斜した高原が広がっている。そこを這いずるように進む生き物たちの向こうに、傷だらけの巨馬たちに曳かせた鉄の馬車の上で、異様に背中の大きいぼさぼさの髪の毛と髭をふり乱した人影が見えた。声は、明らかにそこから響いてきたものだった。
「そこか? その尾根の上に! あア!」
ナザムは顔をしかめた。
「——効果絶大だな」
「あ……あれはなんなんだ?」
チグリオが目を丸くする。
「デルアザラ・モニシフとその僕たちさ。およそ正気とは思えないが、科学者を自称している男だよ」
「科学?」
イゼーラが眉をひそめて尋ねると、ナザムは苦笑で答えた。
「物事の成り立ちを理屈に基づいて考えたり調べたりする学問……って言えばわかるか?」
「全然」
「だろうな」
『あれか、われらの敵は』
再び、例の操兵から拡声器越しに破れ鐘のような声が響く。
「ああそうさ。存分にやってくれ」
ナザムが答えるや否や、操兵たちはいっせいに尾根の斜面を滑り降り始めた。同時に、不安定な姿勢のまま、背や腰に据えられた砲からいっせいに砲弾を放つ。
やや間があって、押し寄せる灰色の集団の間に炎が上がった。たちまちそれは燃え広がり、蠢く奇怪な連中を青白い炎の中に飲み込んでいく。
「鉄も溶かす高温燃素(リーターチット)だ。あれで燃えなきゃどうかしてるぜ」
だが、実際その「うごめく死」たちはどうかしていた。渦巻く炎をくぐり抜け、半分にちぎれた砂熊や、鋏を失った三リートほどの岩蠍、そして焼けただれた無数の人影が這い出てくる。
「こんな場所で燃素を使っても、わが僕は焼き尽くすことなどできんよ、ナザム・アー・マルズダ卿。操兵を繰り出せば、わが死の軍団に対抗できるとでも思ったか? むしろ逆よ、操手をわが僕と化し、古の死操兵がごとく操ってみせようぞ」
まるでナザムの声が聞こえていたかのように、デルアザラが奇声を発した。
「聞き捨てならないことを言ったな? まるでその場で自分の兵隊を増やせるような口ぶりじゃないか」
炎から抜け出た動く屍たちの中には、ナザムの部下が身につけている灰色の装束の残骸らしいものをまとった人影もあった。焦げてはいるが、動きはあまり鈍っていない。
ナザムは、うんざり顔で望遠鏡から目を離し、イゼーラの顔の前に突き出した。
「まああれも、その科学の成果のひとつだな」
イゼーラは不機嫌そうに手でそれを押しのけた。
「そんなもん使わなくても見えてるよ。あいつ、たぶん組合の地下室にいたやつらのひとりだな? なんであっちにいるんだよ」
「……あのデルアザラは生き物を自分の思いのままに操れる死体にするのが得意中の得意なんだ。厳密に言えば、やつらは本当に死んでるわけじゃない。どんな傷を負っても、どんな状態になっても、生命の最後の最後まで使い切るように改造されていると言うべきかな」
「じゃ、あれはみんな生きてるっていうんですか?」
息を飲んで眼下の光景に見入っていたユキムが、ナザムを振り返った。
「単純に生命活動という観点では、そうだ。ただし、魂はすでに残っていない。仮にデルアザラの処置を解き、心を呼び戻せたとしても、その途端に死んでしまうだろう。やつらは本来なら一生かけて使うはずの生命力を一気に燃やしている状態だからな。一度そうなれば、それを止めることはきわめて難しい。事実上、連中はもう死んだも同然なんだ」
冷静にそう言い放つナザムに、ユキムは信じられないという目を向けた。
「でも、彼らはあなたの仲間だったのでしょう? まだ生きているというのに、どうしてそんな物言いができるのですか」
ナザムは肩をすくめた。
「確かに、逆の立場ならあいつらはわたしを救おうと試みるかもしれない。彼らの立場上、その必要があるからだ。それがかなわないなら、最優先で処分しようとするだろう」
「言っていることの意味がよくわかりませんが……」
「要するに、わたしたちは情に縛られない形で仕事をしているということですよ、お嬢さん。なんにせよ、まずいことになった」
イゼーラが眉をひそめる。
「まずいこと?」
「わたしたちの知る限り、『動く死体』を作るにはそれなりの時間が必要なはずだったんだ。それがご覧の通りさ。最初の偵察を送り込んだのは、ほんの半刻ほど前のことだったんだが……あれを見れば、デルアザラがなにか画期的な方法を発見したのは明らかだ」
ナザムがそう口にしたまさにその時、逃げ遅れたか、手前をうろうろしていた野生の山羊の一団に向かって、隊列の中から俊敏に動ける小動物の集団が襲いかかっていく。体格から見て、山羊にかなうような生き物たちではなかったが、素早く追いついたそれらが牙や爪を立てたとたん、大柄な山羊たちは次々と身体を痙攣させ、ばたばたとその場に倒れていった。
獲物を仕留めると、小動物たちは関心を失ったように隊列に戻っていった。それからほどなくして、死んだように横たわっていた山羊たちが、痙攣とともにのろのろと起き上がり、生気のない足取りで死の行進に加わった。
「なるほど、なるほど。とうとうやつめ、安い怪談話を現実のものにしたってわけか」
「ずいぶん冷静ぶってるけど、あれじゃけしかけたあの操兵たちもまずいんじゃないのか?」
シュウマだった。操兵は外界から完全に遮断されているわけではない。操手漕は実際には隙間だらけで、ちょっとした小動物ならやすやす潜り込むことができる。あの哀れな山羊たちを襲った生き物たちなら、たやすく中の人間に噛み付くことができるだろう。
だが、ナザムは余裕の笑みを浮かべて答えた。
「まあ、見てるといい」
燃素弾で遠距離から牽制しつつ、分断された相手を殲滅していくという戦術によって、彼らは優勢に戦いを進めていきました。
四半刻ほどが経過した時点で、敵の数は半数近くに減っていました。実際には大型生物の大半はすでになく、残っているのは人間と中型の動物、それに遠巻きに操兵たちの隙を狙っている小動物たちの集団だけになっていました。
デルアザラは半狂乱できいきい喚くだけで、なにもできない。その場の誰もがそう考えて気を緩めたその瞬間でした。
激しい羽音とごうっと渦を巻く風が平原の土を巻き上げたのは、まさにそのときだった。
頭上に圧迫感を覚え、とっさに顔をあげたイゼーラは、上空から矢のように落下してくる巨大な影を見た。
「なんだ、あれは」
眉のあたりに庇のように手をかざし、やはり上方に目を向けたナザムが呻くような声をあげた。
「夏龍……だと?」
シュウマはその名を知っていた。砂漠の北部に棲むという伝説の生き物の名である。話に聞いたことがあるだけで、その時はただのおとぎ話の類だと思っていた。だが、翼をその巨体に巻きつけ、身をまっすぐにのばして降下していく巨大な蜥蜴は、その話から想像した姿そのままに思われた。
驚いたことに、操兵たちは奇襲を受けてもじつに冷静だった。砲を装備している機体の何体かは、落下する夏龍に向けて迎撃をすらして見せた。一発は夏龍の肩口のあたりに着弾し、一瞬炎の華を咲かせたが、猛烈な急降下によってほとんど吹き飛ばされ、効果を発揮しなかった。
操兵たちの頭上で、夏龍は大きく翼を広げ、ざあっと音を立てて黒い霧を舞い散らせながら急制動をかけた。それは、傷だらけの夏龍から流れ出た体液だった。
「口もとをおさえろ! あれを吸い込んだら、こっちも危険だ」
いままでと打って変わって真剣な声で、ナザムが叫んだ。とっさに全員が口もとに手や首に巻いていた布を当てる。やや遅れて、黒い飛沫を含んだ風が通り抜けていった。
「くそ、デルアザラめ、やけに余裕があると思えば、あんなものを隠していたか」
「まずいのか?」
イゼーラの声に、ナザムはかぶりを振った。
「いや、それでもやつは『神聖騎士』には勝てんよ」
宙を舞う夏龍は、全身を覆う棘を時折火箭のように放ちながら、操兵たちと戦っていた。地を這う軍団には圧倒的な強さを見せた操兵たちも、頭上を取られては苦戦は必至だった。
だが、燃素弾から炸裂弾に切り替え、何発かを至近距離で炸裂させることに成功した操兵たちは、ついに夏龍の翼を吹き飛ばし、かの厄介な巨獣を地上に墜とすことに成功した。
夏龍は操兵に囲まれ、一斉に振り下ろされた剣や鉾を受けたが、ひるんだ様子はなかった。手近な一体にしがみつき、全身から吹き出す黒い体液を浴びせかける。
「まずい!」
叫んだのはシュウマだった。仲間から夏龍を引き剥がそうと、巨獣の背中にしがみついた機体に、今度は小動物の大群がざざっと音を立てて群がっていく。
「大丈夫さ。やつらでは神聖騎士を止められないって言ったろ?」
中の人間が、生ける屍に変えられるのに十分な時間が経過したにも関わらず、操兵たちは平然と戦いを続けていた。味方に群がる小動物を吐炎具によって一気に焼き払い、なおも操兵にかじりつく夏龍の長い首に向けて刃を叩きつける。
ついに夏龍の首が落ち、それでもなお離れようとしない身体を操兵たちが無理やり引き剥がしていく。
と、操兵の一体の背部が弾け飛んだ。ちょうどそこにあるはずの操手漕の内部が、むき出しになる。
「なんと……これは」
デルアザラだった。
操手漕の外郭を吹き飛ばしたのは、その背中から伸びたうねりくねる触手のような導管だった。その先端は返しのついた穴付きの棘になっている。
操手漕の中にあったのは、長さにして20リット、幅10リットばかりの小さな銀色の円筒だった。それが、操兵の背部に半分のめり込む形で固定されている。
「な? お前の毒液がいくら強力でも、神聖騎士さまには届かないのさ。なにしろ、奴らはもともと操兵そのものとして育てられたんだからな」
そう呟くように言うナザムの顔には、自嘲するかのような色が浮かんでいた。
神聖騎士の正体は、そういう連中だったのでありました。これ自体はそれほど驚くようなものではないかもしれませんが、調停会議って組織は、こういう連中を戦力として持っているっていう時点で、お察しって感じがありますね。
加えて、デルアザラがこのままでいるとも思えません(というかもっとエグいことしてきます)。
そして、なぜ、イゼーラたちがこんな場所に連れてこられたのか、その説明もまだだったりします(これはカンのいい方々にはもうお分かりかもしれませんが。まあ、わかりやすい理由ではあります)。
その3では、この辺も含めて、この件の解決編をお送りします。デルアザラはただのやられ役ではないですし、第1話が終わってむしろ謎やら隠れている事実やらがごろごろ出てくる事態になりそうですが、まあ第1話なのでそれでいいんではないかと! け、決して投げっぱなしってわけではないのです。
なんとか年末に間に合ったぞ! おかしい、こんなの上旬に終わってなきゃいけなかったのに! なんかすいません! つづく