1.練法の八門
2.その他の『門』
3.練法の実際
4.練法の階梯
聖刻世界には、魔法のような術〈練法〉を使う人々が存在します。彼らは〈練法師〉と呼ばれ、アハーン大陸の歴史の陰で暗躍してきました。
練法は魔法ではなく、〈聖刻〉の力を引き出すために作り出された理論体系です。個人の資質も重要な要素ですが、単に練法の術を発動させるだけなら、(逆によほど資質に欠けたところがなければ)誰にでも可能なのです。
1.練法の八門
練法は、術の性質によって以下の8の系統(門)に分類されます。
陽門:光、熱、温熱によって引き起こされる精神状態などを操る門。
金門:金属、物理的な力を操る門。
火門:燃焼、それにともなう高温を操る門。
木門:生命活動全般を操る門。-裏門-
月門:闇、精神、時間を操る門。
風門:大気、天候を操る門。
水門:水、低温を操る門。
土門:大地と死を操る門。
表門が動的な性質の術を扱うことが多いのに対して、裏門は静的な性質の術が中心になっています。また。表裏それぞれで対応する門(陽⇔月、金⇔風、火⇔水、木⇔土)の術は、打ち消しあう性質を持っています。
この関係を〈対門〉と呼びます。
例えば、陽門と月門は、光と闇の性質で阻害しあう関係にあります。金門と風門も同様で、火門と水門は説明するまでもないでしょう。
木門と土門が対立するのは、それぞれが生命と死を扱っているからです。
練法師は、この8つの門のいずれかに属さなければなりません。複数の系統にわたって術を使うのは、非常に効率が悪いからです(属さない門の術が使えないというわけではありません)。
自分の属する門を〈自門〉、その他の門を〈他門〉といいます。対立する関係の門が対門と呼ばれるのと同様です。
2.その他の『門』
練法には代表的な8の門以外に、以下のような門が存在します。
門外:8の門の性質を持たない中性的な術を扱う。門外の専門術師がいるわけではなく、各門の練法師たちが自門と同じように扱える。
外道:禁術とされた秘術を扱う。外道門も特定の性質に縛られない(木門の外道や、金門の外道も存在しうる)ため、専門の術師が存在したわけではない。
秘装:失われた太古の秘術。練法が現状の形態に分化する以前のもので、この術を伝える人間や記録は存在しない。秘操兵と呼ばれる隔絶した存在や、太古から生き延びてきた超常の存在が使ったという記録があるのみである。
3.練法の実際
では、練法は実際にどのように使われるのでしょうか。
練法を使うためには、以下の物品が必要です。これは、どんな練法師でも一緒です。
・触媒(術ごとに異なる。必要のない場合もある。簡単に調達できるものから、莫大な費用や手間がかかるものまでさまざま)
一般に、練法師は仮面を手に入れて一人前とされます。聖刻石だけの練法師は練法使いの名で呼ばれます。
一部の間者などのように、練法を諜報活動の一手段として用いる人間もいますが、こうした人間が仮面を持つことはごくまれで、聖刻石を目立たないように身につけていることが多いようです。仮面は練法師としての象徴であり、練法を道具としてしか扱わない人間が持つべきものではないと考えられているからです。
さて、実際に練法を使う場合、仮面を顔にあてる、もしくは聖刻石を身につけておく必要があります。仮面を懐に入れているだけでも、聖刻石を身につけているのと同じなので、低位の練法は使うことができるでしょう(仮面を装着した状態では、自分が練法師だと公言しているようなものなので、相手を油断させるためにあえて仮面をつけずに敵に向かうことも少なくないようです)。
さらに、使う術を選んだら、必要な触媒を準備します。使おうと思う術の触媒はあらかじめ入手しているはずですから、単に取り出すだけですが。あるいは、そこに存在するだけで機能するものなら、懐に入れているだけで大丈夫かもしれません。
これで、練法を発動させる準備はできました。
実際に練法を発動させるためには、練法師は決められた印を決められた順番に結びながら、それに対応した言葉を発声しなければなりません。練法を習得するということは、この印と言葉を正確に記憶するということです。ちなみに、練法で用いられる言葉は一般的な言語ではなく、古代に使われていたと考えられる〈聖刻語〉と呼ばれるものです。練法師はこの言語を習得しているのが普通です。ただし、低位の術は単純に音として言葉を覚えるだけでも使えるようで、聖刻語を習得していなくても使えないことはありません。
多くの術では、印の数や言葉の量が増えるほど強力なものになる傾向があります。当然、少しでも言葉を間違えたり、印が崩れたりすると術は失敗します。
失敗した術は、たいていは不発で終わるだけですが、まれに暴発や予想外の効果を引き起こすことがあります。強力な術ほどその傾向が強く、練法師はその使用に細心の注意を払わなければなりません。
4.練法の階梯 NEW
練法にはその難度に応じて階梯が設定されています。
階梯は1から12まであって、階梯ごとの難度、特徴は以下の通りです。
第1〜3階梯:完全な発声と指先の動きさえ身につければ、比較的容易に行使可能な術。階梯の差は結印の手数や詠唱の長さによる。加工された練法用の聖刻石のみで使えるのは第3階梯の術までに限られる。また、仮面をつけた練法師はこの階梯の範囲なら意識の中で結印、詠唱するだけで(つまり動かず、無発声で)術を発動させることができる。階梯によらず、練法の行使には精神力が必要になる。1〜3階梯は常人でも昏倒することなしに発動させられる範囲にある。
第4〜6階梯:ここから上の階梯は、仮面の補佐なしでは行使できない術となる。3階梯以下の術に比べ、おおむね威力が大きくなるか、通常の物理現象の理を逸脱するものが多い。結印の手数と詠唱の長さはより増し、複雑かつ精妙な指運びと発声が必要となる。練法発動に伴う精神の疲労は、装着した仮面によって最低限に抑えられるが、それでも特別に鍛錬している人間でなければ発動させる前に意識を失う可能性が高い。
第7〜9階梯:対集団、対操兵に威力を発揮する術が増えてくる。一般的に大練法師として認識されるのは、この階梯以上を使いこなす術者である。この階梯に属する術は大半が破壊的であり、通常の物理法則を無視したかのような効果を発揮する。それだけに術者の消耗も大きく、結印、詠唱の精密さも非常に高度なものを要求されるようになる。発動までに要する時間も長さを増し、威力は相応のものとなるが確実に行使することが困難なものになってくる。ここで術者に要求されるのは、単なる技量だけではなく、いかに行使困難な術を確実かつ効果的に発動させるかという戦術的、ひいては戦略的な視座であるといえよう。
第10〜11階梯:練法の中でも秘術とされる階梯。現行練法の体系の中では、事実上の最高位とされる術群である。この階梯になると、術者が単独で行使するのは非常に困難になってくる。このため、複数の術者が補佐するか、もしくは呪操兵と呼ばれる練法行使に特化した操兵を用いる場合が多い。術の威力、効果ともに下位の階梯とは比較にならず、いったん発動すれば天災地変級の結果を引き起こすものばかりである。仮にこの階梯の術で効果が不似合いなほど小規模、または威力が小さい場合は、見えないところでその階梯に見合った何事かを引き起こしている可能性が高い。また、この階梯で術の発動に失敗すると、多くの場合術者に破滅的な反動が及ぶことがほとんどである。
第12階梯:現行練法の到達可能な最高域の秘術。秘術中の秘術と呼んで差し支えないだろう。その威力はあまりにも偉大かつ壮大であり、11階梯以下の術とは根本的に発想の異なるものだと言っていいだろう。その中には因果律そのものを操作したり、異界の超常の存在を喚び出すものなどが存在するという。記録を信じるなら、その詠唱や結印はもはや呪操兵の助けをもってしても不可能と言っていい域に達しており、現実に行使可能なのかどうか議論されているほどである。一説には古の秘装の秘術を現行練法の体系に書き換え、保存したものであるとも言われる。また、〈神〉あるいはそれに類するものに対抗するために編み出されたものだとも考えられている。