足長様2024年年末、雪の中を岐阜県は高山に行ってきました。
江戸時代の街並みがそのまんま残ってる町です。それ自体はまあともかくとして、近所に白川郷っていう国内屈指の豪雪地域があるくらいなんで、かなり降ります。年末にかけてあっちの方は大雪だったんで、そりゃあもう大変でした。

高山に行こうってなった時、雪が降るのは織り込み済みだったんで当然電車で行こうとしたわけです。したんですが、あらゆる指定席が全滅でしてね。まあ年末なんだから当然なんですけど。
でも、どうしても行きたいってことになったんで、クルマを使うことになりました。当然雪の中に突っ込んでいくので、それ用のタイヤが必要になります。
が、そのためだけにタイヤ履き替えるわけにもまいりません。たった2、3日のためにタイヤ買うの、いくらなんでも不経済でしょう。電車賃考えたらそんなでもないんですがまあそれはともかく。履き替えたタイヤをどこに保管するかって問題もあるし、履き替えの作業賃もかかる。
レンタルの冬タイヤもあったんですが、予約そのものが10月開始でとっくに埋まってる上、年末は特別料金がかかり、しかも日数が1週間固定とかザラ(お正月休業期間の貸し出しだから)でこれも現実的ではない。
そこで浮上したのが全天候タイヤです。
こいつは夏タイヤと冬タイヤの特性を両方持たせてあるもので、ちょっとした雪道ならそのままで対応可能という代物なのです。これ装備してチェーン持っていけば、チェーン履かせる場所までなんとか行って、そこから凌げる程度には走れるかもと考えたわけです。

さあ、ここからが本題。
全天候タイヤって、聞こえはいいんですが全部中途半端な性能で、ぶっちゃければマルチクラスの器用貧乏を地でいくような代物なわけです。雪道で走れるのはせいぜい圧雪状態まで。それ以上は打つ手なしで、凍結路面なんか命捨てにいくようなものだし、乾燥路面もバキバキの夏タイヤにはどうしても負ける。まあ夏場は自分の走り方なら気にしなくてもいいんですけど。
が、この両方の特性を極限まで引き上げようと目論む連中がいないはずがなかった。
タイヤの相談をディーラーさんにしたところなんかうってつけの新製品があるって話があって、とりあえず確認もせずにそれをお願いしたんですが、調べてみるとこれが吃驚。
全天候タイヤって圧雪状態の道路くらいはなんとか走れるけど、冬タイヤ扱いではないので規制があるとチェーン履くのが必須ってのが普通だったんですが、注文したやつはどうも冬タイヤ扱いされているんですよ。さすがに冬タイヤと比べると若干性能は劣るらしいんですが、凍結路面もなんとかなるレベルとのこと。
とはいっても謳い文句ならいくらでも盛れるわけで、実際のところはどうなのか、参考程度にですがウェブ上のレビューを見てみると、とにかく辛口で知られているようなところでも貶し言葉はまず出てこない。若干の不満はあっても、高望みすればって枕詞つき。
技術ヲタとしてはテンション爆上がりなわけです。期せずしてなんか最先端のブツを手に入れた感じ。いや実際、これが1年早かったら手に入らなかったわけですからね。それがこのタイミングだからこそ手に入って、その性能のほどを身をもって確かめられるなんて、こんな僥倖がありましょうか。

いやまあ、まさかこれでもかとばかりの雪道を走らされることになろうとは思いもよりませんでしたが。

正直スキーとか行かないんで(カミさんは結婚前に結構行ってた)、冬用タイヤを雪路で使ったこともなかったんですけど、自転車で厚いシャーベット状の雪が下にある表面だけ凍った路面を年賀状配達で走り回った経験のある身としては、分厚い圧雪路面を普通の道路のように走っていく自分のクルマに驚きを隠せませんでした。それも峠道を。
軽い圧雪状態でも、夏タイヤはしっかり滑りますからね(チェーン切れて立ち往生した経験あり)。もしかしたら技術でなんとかなるのかもしれないけど、あの状況で自分の腕前を試す気にはなれません(そもそも法令違反)。
今時のクルマはABSなんて標準装備なんで、その助けもあったとは思うんですが、ほぼ吹雪の天候の中、下り斜面で滑りもせず、けっしてノロノロではない速度で20キロ以上走り続けたわけです。
冬用に常時乗ってる人なら驚くことじゃなかったんでしょうが、もうただ感嘆しながら運転してましたよ。いやそれ以上に怖かったけど。
帰る日は街中歩いているうちにどんどん雪が激しくなって、帰れるのかこれって思ったけど帰ってこられましたね。途中、どこをどう走ってたのか、記憶が定かではありませんでしたが。目の前の路面と状況に対応しているだけでていっぱい。夜だったし。
しかも出だしのところで3台続けてスタックしてるの見たんで、緊張するなってのがどうかしてますわな。まあたぶんあれは夏タイヤ+チェーンで出かけて、チェーン履かせるタイミング見誤った結果だと思うんですけど(着脱の手間はもちろん、履くとスピードが全く出せない)。

このタイヤ、どういう代物なのかというと、ゴムの物性が状況に合わせて変化するんだそうで。水濡で軟化したり、低温状態でも硬化しにくいとのこと。
たぶん同じ発想は他のところでもあったはずなんですが、ここまで実用化されてこなかったってことはそれだけ困難な技術だったってことなんでしょうね。それにしても材料工学すげえ。
考えてみれば、スパイクタイヤが禁止されて、どうやって冬の雪道を走るんだって思ってたところにスタッドレスタイヤが出て、それである程度は大丈夫だったって時点で十分すごいことだったんですが、まだまだ高みって目指せるんだなあと。

なんとも、予想外なところで科学すげえって感じさせられたことでした。

日下部匡俊

タイヤはシンクロウェザーといいます。素材で特許取ってるだろうから、他社が追随するのは難しいかもしれない。いやどっかが絶対同じレベルのを出してくるとは思ってますが。人間の智慧を舐めてはいけない。
そして正月からなに書いてんだ。