聖刻シリーズが初めての方は、『聖刻シリーズとは』『聖刻日記 #3』などを一度ご覧ください。
聖刻-BEYOND- PV絶賛公開中!

さらに続き。
ここまで読まれた方のほとんどは、じゃあ、操兵なんか使わなきゃいいじゃんとお思いでしょう。
もちろん、デメリットだけ考えればそうです。が、操兵を使う利点は、それを補ってあまりあるものがあるのです。
最大の利点は、人々の心に染み付いた操兵に対する潜在的な恐怖心です。巨大な鉄の人形というだけでも、十分すぎる威圧感がある上(前にも触れましたが、ATの実物大モデルの威圧感たるや、半端なものではありませんでした)に、それがでっかい武器抱えて殴り合うわけですから、そりゃ恐くないはずがありません。操兵同士の戦いは、神々の戦いを連想させるものでもあると言いましょうか。当たるまで何が起きたかわからない銃弾や砲弾が飛び交う戦場より、この時代の人々にとって恐ろしいものであることだけは確かでしょう。
とにかくそういうわけで、操兵の集団を適当に配置するだけで、ほぼ暴動の心配をせずに済むので、これは非常に大きいと言えるでしょう。制圧したはずの勢力の人間が、ゲリラ戦に出てきたら非常に厄介ですから。

それに、人間の軍勢だけで操兵を倒す方法は、この時期、この世界には存在しないと言っていい状態です。長期戦に持ち込んで消耗させるという方法がないでもありませんが、現実的とは言えません。操兵に生身で挑んでいける人間など、そういないからです。
というわけで、結局のところ、まともな軍事組織を持とうと思ったら、どうしても操兵が必要になります。が、操兵を持つということは、それだけで凄まじい負担がかかるので、それをなんとかしたいと考えるのは人情というものでしょう。
実際、それはなにも列強と呼ばれる国々も例外ではありません。これらの国々は数百の操兵を保有し、その保守、整備とさらなる生産のために千人単位の操兵鍛冶師を抱えています。厳密には、こうした職人たちは国家ではなく鍛冶組合に所属しているため、この組合との協定の結果、国家の軍事活動に協力しているという複雑な関係にあるのですが。
当然、そのために必要な予算も想像を絶するものがあります。なみの国家なら、それだけでいくつも運営できてしまいそうなほど。というわけで、こうした国家の首脳は、常に軍事費を戦力を落とすことなくカットすることに頭を悩ませているわけです。

そのためには、伝統的な操兵の運用や戦術を変える必要がありました。きっかけは、〈黒の帝国〉のドアーテ種による組織だった戦術を列強の首脳たちが目の当たりにしたところからでした。もちろんそれはきっかけに過ぎず、さらにその先があったのですが。

日下部匡俊