ちょいと聖刻シリーズからは離れますが、作り込みの話を。

メイドインアビスというアニメが始まりました。ググればわかるので細かいことは省きますが、ざっくりいうと島の真ん中にあいた大穴をめぐる遺跡探索ものです。
この内容に対して、背景の作り込みが半端ない。巨大な穴の周りの狭い土地に築かれた町の風景や建物などの構造、細かい道具のデザイン、穴の構造や深度による生態系などなど、たぶん使われないであろう部分まで相当きちんと作ってあると思われます(もちろん現実からの流用もたくさんありますが、それを選んでしかるべきところに据えるというのも立派な設定作業です)。
いや、映像作品を作る上では当然といえば当然のことなのですが。
ああでも、原作マンガがあるし、デザイン方面はマンガからだとしたら、そっちも相当こだわって作ってるっぽいなー。それでもマンガに描く背景とアニメじゃ量が違うから、アニメスタッフの作業量は相当なものだと思うけど。

映像作品に限らず、何かお話を作ろうとした場合、こういう作り込みがあるかないかで背景の現実味が変わってきます。石垣や側溝の形、使っている刃物のデザインや部屋の調度、電気の配線がどういう構造を取っているか(碍子の形とか、電線の這わせ方とか)、たぶんいい加減にやればいくらでもいい加減にできますけど、逆に文化的な背景から石の切り出し方とか、道具の形とか決めてあると、自然に作品に漂う空気が決まってくるわけです。
例えば、孤児院で子供たちを集めて院長が訓示を垂れるところで、子供の席は壁に垂直に取り付けられているんですが、たぶん土地が限られているので、ああいう場所は少しでも小面積でおさまるように作られているんでしょう。まあこれは完全な推測ですが(他に、子供たちは遺物の探索で穴を上り下りするので、立体的な移動に少しでも慣れさせるとか、そういう意図もあるかもしれない)。
インフラに関わる部分なんかも、街全体が起伏の大きい斜面に作られているので、それに合わせてレイアウトしてあるとかね。
こういうところなんかちゃんと描写することで、町全体の雰囲気とか、言葉を尽くさずに見せることができるわけで。

もちろん映像作品の印象を決めるのはまず登場人物とそのデザイン(声もか)なので、いくら背景をがりがりと作り込んでも、与える影響はそれに比べればけっして大きくはないかもしれません。でも、やっぱり背景がどう組まれているか(そして、それの作り出している雰囲気はどうか)で、作品の質そのものが左右されるというのはあると思います。

日下部匡俊