操兵は聖刻(仮面)によって動きます。ということは、逆を言えば、この仮面さえなんとかしてしまえば、操兵を倒すことができることになります。
頭上8メートル(従兵機だと5メートルくらいですが)の位置にあって、激しく動き回っているものを攻撃するのは簡単なことではありませんが、大量に弩などを使って攻撃すれば、なんとかなる可能性はあるでしょう。
それなら、仮面を何かで覆ってしまえばいいじゃないかと考える人間がいても不思議ではありません。実際、操兵の仮面には面頬がついている場合が多いです。多いですが、完全に隠されている仮面はありません。
なぜか。仮面は、完全に周囲をふさいでしまうとうまく動かなくなるからです。
人間が面をつけると視界が狭まったり、皮膚感が弱まって動きが鈍ることがありますが、仮面にも同じ理屈が通用するようです。このため、どうしても仮面は面頬などで守っても一部は外にさらさなければならず、それが操兵にとって大きな弱点になります。
また、仮面は衝撃に弱いので、仮に面頬の上からでも強く殴られれば麻痺状態に陥ります。操兵の機体は仮面の魔力によって支えられているところがあるので、稼働中に仮面が力を失えば機体が崩壊する危険があります。また、操兵の仮面は操手の精神と結びついているので、仮面へのダメージは操手へのダメージとなります。正確に言えば操手の精神へのダメージですね。精神ってのは傷ついても自然治癒以外治す方法がない(術法による回復もありますが)ので、場合によっては身体のケガより厄介です。
操兵乗り、つまり操手が命を落とすのは、実は身体への傷にならんで仮面への打撃によって精神が回復できないほどのダメージを負ったという場合も多いのです。仮面へのダメージは、操兵同士での戦いでも発生するので。
というか、操兵同士の戦いでは、可能なら頭部を狙うのが普通です。相手の弱点なので。仮面を手に入れることが目的の場合も多いので、そういうときはそうでもありませんが、倒すか倒されるかの戦いでは攻撃は頭部に集中しがちです。
仮面が破壊されれば、操手にも致命的なダメージが加わることになるでしょう。精神への打撃と書きましたが、結果、肉体にも影響が及ぶことがあります。仮面を砕かれた場合、傷ついた精神の影響で肉体にも大きな傷を受けることは珍しくありません。
というわけで、操兵鍛冶たちは、長年仮面を守りながらその能力を落とさない工夫を続けてきました。従兵機と呼ばれる低位の機体では、その試みはかなり成功しているようです。例えば、年代記に登場するアー・ハークスの面頬は、仮面本体をほぼ完全に覆い尽くしながら、衝撃を吸収し、そのポテンシャルを最大に引き出せるように作られています。まあ、これは費用対効果度外視で、なおかつ仮面が非常に特殊なものだったおかげで可能だったようですが。
しかし、大半の操兵はほぼむき出しで弱点を抱えた状態にあり、それは聖刻の大地の時代になってもあまり変わっていません。
日下部匡俊