これは別に操兵に限ったことではありませんが、戦場において敵味方の識別は非常に大事です。というか、乱戦になったり、戦いが長引いて戦場がばらばらになったりすると、味方同士で戦う危険もないではありません。
剣の聖刻あたりだと操兵の数が少ないので、まだ対処のしようもないではありませんが、それでも適切に対策していない場合、同士討ちの事故は絶対に起こります。
これを防ぐには、現実世界でも採用されているように、旗指物の図柄や鉢巻きなどの色、鎧の上の羽織などで視覚的に識別するという方法が一般的でしょう。もちろん、その陣営にしか存在しない操兵を使うのも手ですが、お金がかかるのでよほどの大組織(大国)でなければ現実的ではないと思われます。まあ、外見さえ揃えてしまえばいいわけで、操兵そのものまで一緒にすることはないわけですが。
というわけで、公開されているデザインの存在する操兵でも、実際の運用ではあのままの姿ということは案外少ないです(一品物は別ですが)。特に原型機と呼ばれる機体は、少なくとも外見は非常に似通っているので、大抵はその陣営の意匠を凝らした外装が施されているのが普通です。
東方の操兵のように羽織を身につけているような機体もありますが、あっちのは魔力がこもっていたりしてなかなか破れないので使えるわけで、西方のように特別製の布地が使いにくい場所ではもうちょっとメンテが簡単な外装が使われるのが普通です。
一番わかりやすいのは機体色と紋章でしょう。色は一発で識別できますから、各陣営で工夫が凝らされています。また、股間や関節などの飾り布の色や図柄が利用されることも多いでしょう。外装に凝った機体の場合、機体色の塗り分けが大変だったりするので、特に飾り布で識別するパターンが多いようです。
一方、黒の帝国のように通信手段を持っている機体の場合は、それを利用した敵味方の識別法も採用されました。帝国製の操兵はわかりやすいので識別は比較的楽ですが、そのほかの一般機ではやはりなんらかの目印が必要でした。そこで、光の明滅で通信を行う機体では常に一定の信号を発していたり(なんらかのフィルターを通さないと目に見えない)、音響信号の機体では指向性の強い受信機で特定の信号を発している機体を見分けるという方法が使われているようです。
この方法のメリットは、敵陣営がこの方法に対応できない場合、味方は敵味方をしっかり識別しつつ、敵には味方を装って接近できるということです。黒の帝国の遊撃部隊が恐れられたのは、一説にはこれが理由だったとも考えられているようです。おそらく、後世にもいくつかの勢力が似たような戦略で戦場を席巻したことがあると思われます。
ちなみに感応石は操兵の機種を識別するのには向いていますが、敵味方の区別をつけるには向いていません。仮面になんらかの細工を加えて、陣営を識別できるような魔力の放出が可能ならかなり役に立ちそうですが、そのためには工呪会、聖刻教会の協力が不可欠です。また、機体を奪われた場合、識別は困難になりますね。当然ですが。
日下部匡俊