カグラと呼ばれる東西をつなぐ大街道は、枝道を含めれば5000リー(約20000キロ)近い長さがあります。これを端から端まで移動するのに、順調にいって徒歩で2年ほどかかります。
もちろん、この道を完全に歩き切る人間はそうはいません。たいていは宿場町を中継点にして、契約している隊商が取引を行って商品をやりとりすることが多いでしょう。カグラが交易路として使われるようになって長い歴史があるので、単独で何年も旅をして商品を手に入れてもあまり意味がないからです。

旅が好きという程度では、過酷すぎる大街道の道行きではありますが、それをしてなお遠隔地の情勢を見聞きすることに価値を見出す人間も少なからずいます。大街道上にいる人間の何人かに一人は、なんらかの密偵として働いていると考えても大げさではないかもしれません。
専業の密偵ではなくても、商売のついでに特定の場所、組織や人間に関して情報を集めることを命じられている人間はかなりの数に及んでいると思います。
もちろん、こんなやり方で情報を手に入れても、どんなに早くても数ヶ月前のものに過ぎないわけで、あくまで現地の情勢を大まかに掴む程度のものでしかないわけです。が、練法師が絡むと話がまったく変わってきます。
練法師には、遠隔の地にいる人間と直接会話したり、特定の場所を覗き見る術があります。これを用いれば時差なく情報を得られるため、情報戦としては圧倒的優位に立つことができます。
ワースブレイドや聖刻1092、群龍伝の時代において、練法師がそれなりの地位を得ていたのは、主にこういう隔絶した情報収集能力を持っていたからにほかなりません。

日下部匡俊