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ワースブレイドの西方北西部は、ちょっと政治的に変わった場所です。
西方の大半の場所では、君主制が基本です。大半は昔からの伝統的なもので、宗教を背景にした王権神授説とか、あの辺を根拠にしてます。民族はほぼ単一ですし、王様の権威を信じる人が多いんで、割と安定しています。
そういう意味では、小競り合いはあったものの、聖拝戦争(聖杯戦争と変換されたのは内緒……FGOめ!)を除けばまずまず安定した土地だったと言えます。

で、西方北西部なんですが、北部平原に比べればまあひどいもんでした。何度か安定した時期はありましたし、現在もわかりやすく戦争状態にあるってわけではありませんが、それも常に暴発寸前の緊張状態の中にありながら、為政者たちが必死で安定を保ってきた結果だといえます。
いやだって、ここ、西岸のフェルム人たちが、何回も押し寄せて土地を奪ったり奪われたりしてますからね。レコンキスタかっていうくらい、激しい押し合いへし合いがあったのです。
ただ、フェルム人たちは彼らの神アマルポスにそれほど強く帰依していたわけではなく、柔軟にぺガーナを受け入れたり、商売と宗教は別っていうスタンスを取っていたので、衝突はそれほど長くは続きませんでした。忘れた頃に不意打ちのように攻めてくるのを繰り返しましたが。
フェルム人したたかで頭いいんです。

というわけで、戦乱状態がずっと続いてたってわけではありませんが、異なる民族が同居している状況は、かなり荒れた空気を醸成しました。一時期は、ガウアス諸国を無事に通過するためには商う商品の倍の価値を運ぶ必要があるとまで言われてたほどです。半分品物を差し出さないと通れないって意味ですね。
もちろんこれは物言いとしてかなり大げさではあるんですが、ひどい時期は10回に1回は隊商が行方不明になっていたようです。

さすがにこれでは南部との取引もままならないってんで、北部の国々はこの地を安定させるために一策を講じました。
かつて、このガウアスとその南の地域を根城にして、活躍したという人物がいました。その名をガウディ。もとは一介の盗賊でしたが、その名は数世紀が経過してもこの地に生まれ育った人間で知らぬ者はなく、ある意味、ぺガーナやフェルム人の宗教であるアマルポス神教よりも、精神的によほど強い影響力を持っていると言われています。
北部の国々はこの名を利用しました。
ガウアス諸国の中心にあたるガウディ・ノーンと呼ばれる土地に、ガウディの後継者をうたう人種、民族を超えた統率者を立てたのです。その人物は、大いなる統率者の意味を込めて、大統領と呼ばれました。この国は、従来の王制ではなく、過去の一部の国々が試みて、失敗に終わった政治形態である共和制をとることになりました。二つの人種が入り乱れるこの土地で旧来の王制を敷くことは困難でしたし、新しい政治の仕組みは、一時的にしろ人々の関心を惹きつけられるだろうと考えられたからです。

その試みは、うまくいったように思えました。実際、うまくはいったのですが、北部の人々の目論見を超えてうまくいきすぎてしまいました。
大統領を中心としたガウディ・ノーンは、周辺国家にも強い求心力を発揮したのみならず、北部に対抗しうるノーン会議なる軍事同盟を発足させることになったからです。
相変わらずガウアス諸国の修羅の国っぷりに変わりはありませんが、ガウディ・ノーンを中心にした同盟は、北部同盟の思惑の及ばない独立した国家連合に成長しつつあります。

日下部匡俊