実行手段として操兵やらなにやら持っていても、これがないと困るというものがあります。
通信手段です。
練法師には〈遠話〉という強力極まりない情報伝達手段がありますが、一般人にはそれは望むべくもありません。練法が弱くなった大地の時代では、練法師すらまともにそういう手段が存在しません。ではどうするか。

無線はこの際除外しましょう。電源はともかく(操兵があんな調子なので、原始的な電池は作って積めそう)、電子回路(真空管含む)は難易度高すぎるので。仮にあったとしても、一般化するには相当な困難がありそうです。
というわけで、手旗信号とか、発光信号とか、笛とかサイレンとか、冗談抜きで狼煙とか、鳩とか、そういう手段が常用されていたことは想像にかたくありません。全部技術的に可能なことですし、こういうものが採用される基準は、手軽さと効率の兼ね合いなんで、思いついた瞬間に実行できる通信手段はありとあらゆるものが試されていることでしょう。
で、こういう情報密度が低い伝達手段は、運用する人間にしわ寄せがきます。鳩は確実性が低いのと、伝達距離を長く取るのが普通って点で他のとはかなり違いますが。
操兵が入り乱れる戦場で、鳩が乱れ飛んでいる光景を見たくないといえば嘘になりますけど。モンティパイソンあたりがやりそうだ。

ええと、とにかく単純な音や光なんかで通信しようとすると、なんらかのプロトコルが必要になります。でないと、どこからの信号か、どういう内容かがさっぱりだからです。でもって、それが単純だったりすると敵に逆利用される危険もあります。情報の混乱は戦場では特に致命的なので、そこらへんはしっかり考えられていたはず。しっかり考えてない連中は、「こりゃ使えん」つって使わなくなっちゃうのが関の山でしょう。
ワースブレイドでは、基本操兵戦には騎士同士の一騎打ちの風習が残っているので、明確な通信手段を持って集団戦を意識して戦っていたのは黒の帝国だけでした(こんな戦略的な連中なのに、隠し武器は騎士単位で嫌われてたようですが)。彼らだけしか通信という意識を持っていなかったので、プロトコルは単純で、のちにソーダリ国の諜報員に情報を盗まれ、えらいことになったりします。すぐに改善されますが、それは連合軍もおなじで、情報伝達については黒竜戦争後半において優劣の差は解消していたようです。

一方、聖刻の大地では数万機の操兵が入り乱れる戦場もありえたので、もうちょっと高度な通信方法が用いられたようです。具体的には超音波を発生する音叉に低周波を乗せて変調して、復調用の音叉で受信するっていうもの。増幅(集音用のコーンつけたりとか)は基本かけません。指向性が強くなっちゃって、重要な情報を聞きもらすことになりかねないので。あと、低周波≠音声で、ここに乗ったのは暗号化された可変長符号(平たくいえばモールス符号的な)が多かったようです。簡単に解読できちゃね。あと、どんなに信号が微弱でも、音の長短で判別きくので。
一般の操兵は基本受信しかしません。集団には何機かに1機、中継用の機体があって、それが常に音を中継し続ける仕組みです。伝達手段そのものは原始的でも、人間、できる範囲では案外高度なことをするもんだってことで。

日下部匡俊