記録用具の話。
拙著には〈紙葉〉という単語が頻出しますが、これ、要するに「紙」のことです。ただし、上質紙を想像されると困りますが。漂白されている紙は、文明圏の中心に行かないと見つけられないと思います。
基本は、植物の繊維をばらして細かくしてから、糊を混ぜて薄く漉く方式で作られていると思います。和紙なんかと一緒ですね。ただ、和紙のように綺麗なものを大量に作る余裕があるところはごく少ないので、大抵はペンなどが引っかかる大きな繊維の残った灰色のものになるでしょう。そういう意味では、獣皮をなめした皮紙を使う方が書きやすいと思われます。
植物の繊維を利用した紙は、湿気には弱いものの、長い間保存が可能で大きさも自由に調整でき、墨の乗りもいいので長期の記録には大変適しています。
一方、皮紙は引っかかる繊維がないのでペンで書くには楽だし(紙葉もコツさえつかめば難しくはないですが)、丈夫なので多少乱暴に扱っても破れたりしませんが、記録の保存には向きません。獣皮は手入れをしないと劣化するからです。紙のような使い方をしているのに、定期的に油脂をすり込んだり、過度の乾燥を防ぐのは難しいですし、それをやっても長持ちさせるのは難しいので、長期間保存の必要がないものに主に使われています。それしか選択肢のない場所では皮紙だけの場合もあるでしょうが。
紙葉は、品質を問わなければ西方でも東方でも普通に使われています。中原では微妙です。水が手に入りにくいので。材料になる樹木や繊維のしっかりした草も多くはないので。
それでも、大地の時代にはそれなりに使われているかもしれません。文明が進んでいるので。いずれにせよどこでも手軽に使えるものではありません。書付に紙葉を使ってる人間がいたら、そいつは間違いなく大金持ちで権力者です。
あ、一般的には、石板と蝋石が使われていると思います。保存の必要がなくて頻繁に書き換えることが多い場合なんか最適ですので。学校とか、僧侶の座学とか。ノートがわりですね。
日下部匡俊