聖刻の大地の舞台のひとつ、ヤカ・カグラ地方最大の組織〈水源組合〉ですが、みなさんはどんな印象をお持ちでしょう。
表面上は地域の水源を牛耳る組織だが、じつは世界の秘密に通じる秘密を隠しているとか、こっそり失われたはずの練法などの秘術を守っているとか、古代の人間が密かに領袖として組織を操っているとか、そんなイメージをお持ちなら、残念でした。
ヤツらは水利権を牛耳って、地域を締めているヤクザです。それ以上でもそれ以下でもありません。
軍事力は結構な規模のものを保有していますが、国家レベルの相手になるほどのものじゃありません。だいたい、水源組合といっても、宿場町ごとに別組織として成立しているので、彼らが団結してことに当たるなんてことはありえませんし、むしろ対立関係にあると言ってもいいくらいですから。
水源組合の連中が偉そうにしているのは、この地域でもっとも貴重な資源である水を押さえていること、そして、ヤカ・カグラが不可侵の領域だからです。正直、たいしたもんじゃありません。
とはいえ、この地域で相応に力を持っている組織ですから、さまざまな勢力が接触を図っていることもまた確かです。
例えば練法師団。まあ、以前も説明した通り、おかしな方向に野望を持った手品師の集団でしかないんですけど。それでも、彼らの持ち込んだ(断片的ではあるけれど)古代の記録が、水源匠合の物置の中で発見されることは珍しくありません。
あるいはそれなりに名のある教団の高僧とか。ワースブレイドの頃のような奇跡じみた秘術は使えないかもしれませんが、彼らは信者たちの信仰心を巧みに利用して、驚くべき政治力を発揮しています。資金も潤沢です。水源組合は操兵の集団を雇っているのが普通なので、万年金欠状態の彼らとしては、こういった教団からなんとかして資金を引き出したいと願っている相手のひとつなのです。
さらに、〈調停会議〉の連中がいます。お金を落としてくれるわけでも、目立って高い政治力を示すわけではありませんが、彼らは泣く子も黙る中原最大の権威を誇る組織です。そういうところと交渉を重ねて行くことによって、水源組合の人間は、いやがおうでも交渉ごとについてこれ以上なく鍛えられることになりました。
というわけで、最初の頃は暴力と金を好む脳筋集団だった水源組合も、次第にインテリヤクザ、あるいは企業ヤクザへと舵を切りつつあるようです。実際、組合の長の中には高い政治力で、いままでと違う統治を行い始めている人間もいます。
死んでも彼らのような立場にはなりたくありませんが。
日下部匡俊