久々に食べ物。
#45で剣の聖刻年代記での悲惨な食料事情を書きましたが、「文明圏の比較的豊かな場所」が存在するのを忘れてました。
東方です。
東方は確かに非常に危険な土地であり、人間の版図と人外の領域の境界では凄絶な生存競争が行われていますが、梗醍果なんかの大国の中央部は非常に豊かです。蟲などの危険は常にありますが、強力で凶悪な巨獣や巨大昆虫の危険はほぼないため、安定した気候ともあいまって、農作物の収穫は全アハーンの中でももっとも安定しており、牧畜業も盛んです。
この結果、この地域は全アハーンの中でも食料事情は大変安定した地域のひとつ(唯一の、かもしれない)と言えましょう。
もちろん西方の先進地域や南部のシャルクなどはほぼ同じような環境ではあるのですが。
また、このあたりの国々は西方に比べて歴史が古いので、文化の点でも戦乱に明け暮れた西方より洗練されていると言えます。
それは当然食文化にも及んでいて、ただ保存や食材をごまかすための調理ではなく、食事の価値を高めるための様々な調理法が発明されています。
南部は食材の腐敗が進みやすいので、香辛料を多用する料理法が発達しました。香草も好みが分かれるほどきつい香りのものが使用され、暑熱による体力の消耗を補うため、辛味の強い味付けが主流です。これが沿岸部の湿潤な気候の土地になると、味付けは穏やかになり、調理法も多彩になっていきます。塩蔵や乾物、発酵食品を使った調理が多くみられ、香辛料の使用は控えられる傾向にあります。
内陸部は農産物の安定した供給と、組織的に運営される畜産業のおかげで、最も豊かな食文化が発達した地域と言えるでしょう。梗醍果の関撰ではそれこそ東方全域はおろか、西方の一部地域の料理までを味わうことが可能です(誰が持ち込んだかは……わかる人にはわかるはず)。それだけ余裕があるってことですね。もちろん、そんな贅沢はごく一部の富裕層だけの特権ですが、料理法の一部は庶民の料理にも流出しており、西方の技法が一般化して定着した献立や、特殊な麺類などが屋台料理で提供されていることもあります。
例外は吾伽式です。なんせ聖刻教会の本山で禁欲、倹約をモットーにしてるので、全体に地味です。意図的に料理をまずくしている傾向がみられるくらいです。それでも庶民の自然な欲求を止めることはできず、いくつかの名物料理(寒冷地方にありがちな煮込みや焼き物の類)は存在しますが。
安全といえばこれ以上安全な場所はないので、外敵による危険は考える必要がなく、食料供給も種類は限られるにしろ安定しているので、西方の一般的な土地よりはよほど手の込んだものが味わえる環境ではあります。
いやまあ、中華料理とか言い出す気はないですよ? 前にも書きましたが、東方は実は日本イメージなのです。中国ではなく。別に中国に思うところがあるからではなく、そのまんまじゃつまんないからですが。
日下部匡俊