聖刻1092で最初にインパクトを与えたのは、「尻栓抜き」と「壊れる手」だったのではないでしょうか。
操兵とはどういうものかっていうことを、この2つがしっかりと印象付けたと申しましょうか。でかい金属の塊が、実は非常に繊細な(現実的な)ハードウェアから成り立っているということを、この2つの描写がはっきりと示したわけです。
尻栓なんかは、なんで手の届く場所にそんな致命的なセキュリティホール放ってあるんだって声もありましたが、運用上、一番下にドレン口を設けるのは理にかなっていて、一番地面に近いところに排出口つけるのが正しいだろうと(なにせほら、ローテクな世界ですし)。足は別の意味でリスキーですし。
もちろん、高級機になれば血抜きの栓が股間にあるなんてことはないでしょう(主に鍛冶師の趣味的に。ヒーローマシンたる高級操兵が股間からアレをアレするのなんか許せないと思うんです。どんなに手間がかかっても……黒の帝国の操兵は、合理性を重視するかもしれませんが、汲み出し機構をつけるような気がしてならない)。
一方、手の問題はもっとわかりやすいですね。そりゃ、精密にできてるマニュピレーターで殴り合いなんてありえませんよね。現代の精密機械でそれをやれば悲鳴が上がるのに、なぜアハーンならそれが許されるのかってことで。
操兵は仮面の力で物理強度が上がってますから、確かに素のマニュピレーターで殴るよりはましな結果になるかもしれませんが、一撃で原型をとどめないくらいばらばらぐにゃぐにゃになるか、手だったとわかる程度に歪んで、結局動かなくなるかの違いでしかありません。
しかも、手甲をはめようが、得物を持っていようが、反動で手首や腕が壊れることも珍しくないわけです。野球選手が普通にバッティングしたのに手首骨折したとか、そういう話をよく聞きますけど、殺す気で殴ってる操兵の手首に伝わる衝撃はそんなものですむはずがありません(いわゆる達人の部類は、そういう衝撃も相殺しちゃうんでしょうが。そもそも無駄な力が入ってないし。でも、殺し合いの現場でそんな技振るえるのは、正直まともな人間じゃないと思います)。
そういう状況では、手首が壊れるのは当然として、腕全体のメンテナンスは欠かせないでしょうし、機体全体にも歪みがくるのは間違いないでしょう。幸い、仮面の力は微量ながら機体を修復してくれているので、小さな歪み程度ならすぐに修復されるでしょうが、骨材に入った亀裂や歪みによる破断なんかは、たぶん放置してもすぐには直らないので(というか中、下級機は自己回復すら無理)、普通に考えると、操兵で戦うってことがどれほど大変かが目に浮かぶわけです。
いやまあ、そんな細かいことをゲームで言い出しても仕方ないんで、ルールには明記してませんしこれからもしませんが。操兵の維持費って形で一応書いてありますけど、その根拠はこういうことだってことです。
だから、寡兵で大軍を打ち破るとか、口でいうほど簡単ではありません。人間でもそうですが、ましてこれが操兵となったら(どう考えても連戦になりますから)……まあこの縛りでなおかつそれをやってのけたら、さぞかしかっこいいことでしょうが。
日下部匡俊